私の語りかけに、妻の気持ちが明らかに動きました。
その彼女が、予想資金繰り表を見ながら放った、強烈なボディブローは、
「これ、あくまでも予想でしょ?もし転んだらどうするの?」というものでした。
私は静かに言いました。
「転んだら立ち上がるだけだ」
渾身のアッパーカットを放ちました。妻の眼が潤みました。
どうやらヒットしたようです。
しばしの沈黙の後、彼女は印刷したプレゼン資料を手にしたまま、
書斎から出ていきました。
「独立OK」の即答が欲しかった私は、ちょっと残念な気持ちでした。
異性と交際する際、相手が自分に「あなたのこと好き」と言わなければ、
交際ができないわけではありません。
相手がそんな言葉を発しなくても、毎週末にデートを繰り返していれば、
(相手の気持ちはともかく)それは交際と言えるはずです。
小売店の店頭で、顧客が「これ買うわ」と言わなければ、
購買が成立しないわけではありません。
顧客がそんな言葉を発しなくても、「これ一緒に会計しますね」と言えば、
(それで顧客がよければ)購買は成立するはずです。
即答はもらえなかったけれど、大きな手応えはあった。
今日はこれにてよし、とするべきだろう。
その後、30分ほどPC作業をした私は書斎を出て、リビングに移動しました。
リビングでは、妻が子供に私の独立について、相談していました。
子供は私の独立推進派です。それは彼女も知っています。
その子供に相談している姿を見て、「あぁ彼女もOKなのだろうな」と思いました。
翌日。
「ただいま〜」帰宅した私は書斎に入りました。
机の上には、昨日、妻に渡したプレゼン資料が置かれていました。
これをどう解釈するか?
資料について、独立について、納得いかなければ質問するだろう。
質問もなく、資料を私に返してきたということは・・・
独立に対し「言うことなし」ってか?
その後の家内は、子供に対し
「お父さん独立するから、もう贅沢できないんだよ」
と私の前で言うんです。
<おしまい>