当時、私は県内で2番目の生徒数を誇る学校に通い、野球部に所属していました。
生徒数が多いので、部員も多いわけで、当然部員の野球スキルも玉石混交でした。
ベンチ入りできる選手はそれなりの実力者がそろっており、
県大会でも何度か優勝した経験がありました。
そんな中、3年生が引退し、2年生が主体となって新チームが結成され、
私も三塁手の控えとして、ベンチ入りを果たすことができました。
当時、ベンチ入りメンバーには私を含め、三塁手が3人いました。
レギュラーのS君、守備はイマイチですが打撃好調のN君、
そして打撃がイマイチですが、守備面で信頼されている私です。
新チームで臨んだ秋の地区大会。
わが校は順調に勝ち上がり、決勝戦を迎えました。
この試合、レギュラーのS君が怪我をしており、
相手チームが好投手を擁するということで、
打撃好調のN君がスタメンで起用されました。
相手投手をなかなか打ち崩せず、同点のまま迎えた最終回、裏の守り。
この回を守り切れば、延長戦に突入です。
2アウトランナー2塁でした。
次の打者が放った打球はN君のところへ飛びました。
普通の何でもないイージーなゴロ。
N君はその打球を前にはじきました。
慌てて拾い直し一塁へ送球したものの、送球がそれました。
ランナーがホームへ帰ってきて、わがチームはサヨナラ負けを喫しました。
試合後のミーティングで監督が発した言葉は
「最終回はN君を熱血に代えようと思ったんだけどなぁ」でした。
N君にむちを打つようなことは言ってほしくありませんでした。
普段からひょうひょうとしているN君の落ち込む姿を視界でとらえました。
何と声をかければ良いのか分かりませんでした。
翌日、学校の廊下でN君とすれ違いました。
「野球部、辞めようかな」彼がつぶやきました。
結果的に彼の送球ミスがなければ、負けてはいなかったかもしれません。
しかし、監督が選手交代の決断をしていれば、
また、ピッチャーが最終回にランナーを出していなければ、
さらに、最終回までに、わがチームが点数をとっていれば、
N君が敗戦の責任を背負い込むことはなかったのかもしれません。
誰もN君を責めることはできないと思います。
昨日のサッカーワールドカップは、
延長でも決着がつかず、PK戦にもつれ込み、日本は敗れました。
誰が悪いのでもなく、チームに運がなかった。
そしてチームに運を呼び込める力がなかった。
個人をやり玉に挙げることは厳に謹んで欲しいと思うのです。